ロッククライミングには、「クラック(またはトラッド)クライミング」というジャンルがあります。それは、岩の裂け目に手や足をときには体全体を突っ込み、支点となるプロテクションをセットしながら登ること。

そんなクラッククライミングの聖地の一つが、ユタ州にあるインディアン・クリークです。この岩場の特徴は、赤い砂岩の岩塔に、スパッっと割れたクラックが20m、30mと天に向かって伸びているところ。

「?????」
と思った方は、とても普通です。そんな方のために、まずはインディアンクリークの見所をご紹介しましょう。ここは砂漠地帯で、丘の上まで少し歩けば、アメリカらしい奇岩や壮大な景色を地平線の彼方まで眺めることができます。


そして、アナサジ(古代人)の残した興味深い壁画を間近で見ることもできます。その絵を見て、「私より上手だな」と思ったのは私だけでしょうけど……。

さてさて、上のクラックを見て、「きれいだな〜」「プロテクションどうするの?」
と思われた方は、クライミングの経験者だと思われます。ご想像の通り、同じ大きさのサイズのカムがたくさん要ります。ルートによっては、同じサイズを6ヶなんてのもざらですが、それもインディアン・クリークの楽しさ。買い足さなければいけない理由が、またひとつ増えますからね。
このエリアは、ベースとなるモアブの街から車で約1時間。効率的に登るためにも天気予報を見ながら、快適なキャンプ場を利用。公園内にはいくつかのキャンプ場があり、質素だけれどもしっかりと整備されているテントサイトは、どこも賑わっていました。
日本では焚火が禁止されているキャンプ場も多いですが、アメリカやカナダではほぼOK。大概、食事用テーブルと焚火ドラム、そして共同トイレがあります。砂漠なので、水はすべて持ち込みです。売店も何もないので、街での事前準備をお忘れなく。サイトは有料で早い者勝ち。到着と同時に封筒に料金と必要事項を記入して申し込みポストに投函するだけです。

新月が近く、余計な明かりの全くない真っ暗な中での焚火と星は、神秘的な色でした。ただ何かの事故があったらしく、近くの岩塔で、サーチライトを照らしたヘリコプターとレンジャーチームのレスキューの無事を、満点の星空に祈るように見守っていたのを覚えています。

日本で体験できないことの一つは、砂漠の朝の冷え込みです。晴れているので気分は最高なのですが……めちゃくちゃ寒い。とにかく寒い。質のいいダウンの3段重勝負! ってくらい着込んでも寒い。

こういうときは、「太陽が顔を出すまで寝袋から出ないぞ作戦」がベストなのですが、いち早くクライミングにもいきたいし、飲みすぎでトイレにも行きたい、そんな理由でつい早く起きてしまいます。

困ったもんですが、言い訳をするのも悔しいので、「こういう時間のコーヒーが格別なんだよ!」なんてドリップしたら……アッという間にアイスコーヒー。笑えることを繰り返しているうちに待望の朝陽! やったー、ありがとう。

凍てついた木の柵の写真を見てください。左半分が日射面で、右半分が日陰面。太陽はとても力強く、あっという間の解凍劇でした。こういうことを経験すると、古代人にとっての太陽は偉大な力をもった神だったと実感します。
旅も終盤。若い頃は「いかに結果を残すのか!?」というくらい最後の最後までトライし続けていましたが、今は「いかに旅を締めくくるか!」が重要。そのあたりはパートナーと共通認識を持てているので、10年経っても一緒に旅やクライミングができるのです。

旅の終着点のレッドロックス・キャニオン国立公園にやってきました。ラスベガスのダウンタウンからすぐ近くの距離にあるので、クライミングだけでなく、MTBやハイキングなどの人気のエリアです。我々はやっぱり山が好きで、その頂にクライミングしながら登っていきたいので、最後に岩塔のトップに立てるマルチピッチルートを選んで登りました。

このエリアは、基本的にしっかりとアンカーが整備されています。しかし渋滞してしまったりするとそうはいかないときもあり、アンカーはこんな感じになるときもあります。

私をビレイしていた友人は周りのクライマー褒められて嬉しくなったのか、胸を突き出して「Enough!」と叫んでいました。それを聞いた周りのクライマーも「Smart!」と叫びつつ、皆でなぜか大笑いしていたのを覚えています。ここでのクライミングには、常に笑顔があり、楽しいものです。

最後に装備面でいうと、常に軽量化を考えています。特にマルチピッチに行くときは、「何を着て、何を持って何の代用とすれば快適なのか」をできる限り考えます。このときはコンパクトになる防寒着として、〈vinson insulation jkt〉をハーネスにつけて登り始め、防寒・バラクラバ代わりになる〈cozy PG hoodie〉で上半身を、パンツには、撥水・防風・摩擦に強い厚手の〈quest softshell pants〉を選びました。この日のこのルートにはベストチョイスで快適でした。
楽しい時間はあっというに流れるもので、我々は沢山の笑顔と幸運と課題を胸にラスベガス空港から無事に帰国の途につくことができました。