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自転車の旅 南部アフリカ編 vol.1 〜アフリカゾウとの対峙〜【アンバサダー ロウ 麻友&エリオット】

地図でナミビア北東部を注意深く見てみると、矢印の形のような突出した国土が伸びていることに気が付くかと思います。この450kmにも及ぶ異様に細長い土地はカプリビ回廊と呼ばれ、ナミビアがドイツの占領下だった時代にザンビアとボツワナに接するザンベジ川へ到達するための交易のルートとして作られたため、こんな歪な形になったそうです。
また、乾燥したほぼ不毛のこの地域にとって重要な水源であるオカバンゴ川とカバンゴ川が回廊内に流れているので、野生生物が多く棲息しているサファリが点在していることでも知られています。

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ロウ 麻友 & エリオット (ろう・まゆ & えりおっと)
自転車旅人 + デザイナー。2009年ロンドンで出会い、結婚後は南アフリカ共和国へ移住。2015年より3年間、南アフリカ〜イギリス〜日本への道のりを自転車でミニマルに旅する。現在は国内外の未開地を探求しながら、サスティナブルな生き方を実践中。
アンバサダー ロウ 麻友 & エリオットの記事はこちら

自転車の旅 南部アフリカ編 vol.1 〜アフリカゾウとの対峙〜【アンバサダー ロウ 麻友&エリオット】

地図でナミビア北東部を注意深く見てみると、矢印の形のような突出した国土が伸びていることに気が付くかと思います。この450kmにも及ぶ異様に細長い土地はカプリビ回廊と呼ばれ、ナミビアがドイツの占領下だった時代にザンビアとボツワナに接するザンベジ川へ到達するための交易のルートとして作られたため、こんな歪な形になったそうです。

また、乾燥したほぼ不毛のこの地域にとって重要な水源であるオカバンゴ川とカバンゴ川が回廊内に流れているので、野生生物が多く棲息しているサファリが点在していることでも知られています。


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このカプリビ回廊を自転車で通過するには、それなりの覚悟が必要でした。目視できる限り延々と真っ直ぐに伸びる一本の国道沿いには数えるほどの集落があるものの、100km以上「何もない」区間があり、向かい風に見舞われてしまえば集落まで辿り着けないというリスクがあります。


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通常なら食料と水を余分に常備しておいて、道路脇の草むらでキャンプをすれば何の問題もないのですが、この時ばかりは状況が違いました。そこはあらゆる野生動物が確実に存在するサファリの敷地内。ライオンやバッファローなどの凶暴な動物はもちろん、アフリカゾウがボツワナやナミビアからアンゴラ、ザンビア、ジンバブエへと移動する回廊でもあるのです。とは言え、動物の気配を常に感じるかというとそうではありません。実際は代わり映えしない低木の風景が、漕いでも漕いでもひたすら続きます。


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サファリ区間を漕ぎ出して数時間。車もほとんど通らない静まり返った道を無心で走っていると、さすがに初め感じていた動物へ対する緊張感も薄れてきました。しかし、まさに気の緩み出してきたその時。左側の茂みに何か動く物体が一瞬見えました。そして距離が15mほどに近づいたとき「 Elephant!!! 」と前方を走るエリオットに私は叫びました。雄のアフリカゾウの体は高さが優に3mを超えるほど巨大なのにもかかわらず、灰色の体が辺りの乾燥した草木の色と完全に同化していたため、近距離に近づくまで姿を確認できなかったのです。


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しばらくその場に立ち止まってゾウの様子を伺っていたものの、彼は草をむしゃむしゃと食べることに夢中で私たちを気にかける素振りはまったくありません。そこで自転車をゆっくりと押しながらゾウの横を歩いて通過しようと判断したのですが、それが大きな間違いでした。

それまで私たちに見向きもしなかったゾウが、突然くるっと振り返ってこっちに向かって前進してきたのです! ついにはアスファルトの道路の上までやってきて、私たちの前に立ちはだかったゾウは、大きな耳をバタバタしながら首を左右に振って明らかな威嚇を始めました。私たちとゾウの距離は、10m以下。目の前にいる得体の知れない生き物と向かい合って対峙したとき、その後自分がどうなるのか何の想像もつかない恐怖心で体が萎縮しました。それと同時に、自転車ヘルメットしか被っていない自分が、いかに無力でちっぽけなのかを思い知らされました。


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その後、降参を全身で表現するかのようにゾウと目を合わせたまま半歩ずつゆっくりと後ずさりしていくと、彼は「自分のテリトリーから出て行け!」と言わんばかりにその場で威嚇を続けました。そして私たちが100mほど後退して30分近く待ったのち、ゾウは草むらの中へ姿を消しました。

ゾウに限らず、動物たちの通り道やテリトリーには近づいてはいけない、と兼ねてから聞いてはいたのに、その穏やかなゾウの様子につい気を抜いてしまった私たち。この一件から、私とエリオットの野生動物に対する警戒心は急激に高くなり、それを克服するにはそれから数ヶ月の時間を要したのは言うまでもありません。(記事中のゾウの写真は、もちろんこの騒動の最中撮影したものではありません。)


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サファリ区間を自転車で走行することに完全に怖気付いてしまった私たちは、残りのカプリビ回廊をヒッチハイクでいくことに決め、それからすぐに止まってくれた軍用車に自転車を積んで200kmをたったの数時間足らずで通過しました。ちなみにその200km区間で動物を見かけることは一度もなく、普段群れで行動するゾウがあれほど道路から至近距離で佇んでいることは珍しいとドライバーのおじさんは言いました。

このような「アフリカならでは」の経験は、今となってはとても貴重なストーリーとして冷静に語ることができます。しかし、巨大なアフリカゾウと身ひとつで対峙したときのあの数分間、体中に痺れるようなアドレナリンと恐怖心が芽生え、もう二度とこんな状況には追い込まれたくないと感じたのは確かです。


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私たちのアフリカ旅のなかで、もっとも挑戦的だったと言えるナミビアでの90日間も終盤を迎え、次の国であるボツワナの国境へラストプッシュ。その道中、道路の真ん中にまだ新しいゾウの糞がいくつも落ちており、もうゾウには出くわしたくないと周りを警戒しながら余韻に浸ることもなく急ぎ足で走行していきます。

ナミビアとボツワナの出入国管理所の横には巨大なバオバブの木がそびえ立っており、砂漠地帯とはまた違ったアフリカの旅が始まることを示唆していました。アフリカの広大な大地は、この先もまだまだ続いているようです。