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フィールドレポート アカテガニ・夏の夜の物語【アンバサダー 谷口京】

とある夏の夜。東京湾の一角で出会った、生命のドラマをお伝えします。

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谷口 京(たにぐち・けい)
写真家。1997年 日本大学芸術学部写真学科卒業。宮本敬文氏に師事後、NY市ブルックリンを拠点に独立。仕事の傍ら世界各地を巡り、2004年に帰国。雑誌や広告、カタログなど様々なフィールドで活動中。
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フィールドレポート アカテガニ・夏の夜の物語【アンバサダー 谷口京】

とある夏の夜。東京湾の一角で出会った、生命のドラマをお伝えします。


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猛暑続きの夏休み。東京近郊の海へ遊びにいきました。日没後、遊歩道を歩いていると、なにやら小さな生き物が動いています。


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メスのアカテガニでした。お腹にたくさんの子供(カニの幼生のゾエア)を抱えています。


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周囲の草むらにはたくさんのアカテガニが隠れていました。他のカニと違い、アカテガニは陸の住民。普段は森で生活し、夏の夜、産卵(放仔)のために海へ戻ります。海と森を行き来するというユニークな生態を持つため、沿岸の人工化が進んだ東京湾ではごく限られた場所にしか生息していません。


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水辺に行くと、1匹のメスガニが今まさに海に入る時でした。


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私たちも遠巻きに海に入り、そっと様子を見守ります。


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意を決したように体を沈め…


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渾身の力で体を震わせる母ガニ。


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小さな子どもたちが一斉に海へと放たれました。その間6〜7秒。


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まさに全身全霊のお産。天を仰ぎ、彼女は何を想うのか。ふと、娘達の出産に立ち会った日のことを思い出しました。


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無事に放仔を終えた母ガニ。大仕事を終え、まるで達観したかのよう。その様子をじっと見ていた娘も「カニさん、がんばったね」とつぶやきます。


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満潮が近づき、水辺のあちらこちらに母ガニたちが現れました。


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水辺の土手に作られた巣穴。ここは母ガニたちの休憩所。これから海へ向かう者、産卵を終えて森へ帰る者。代わるがわる身体を休めているようです。


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陸ではオスガニたちがメスの帰りを待っていました。オスガニはメスよりも大きな爪と身体を持っています。


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放仔を終えたメスが現れると、オスは爪でメスの脚を掴んで求愛。こうして夏の間にメスは2〜3回産卵を行うのです。


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水際にはクラゲや小魚が集まっていました。漂うカニの仔を捕食しているのでしょう。1匹のメスが産む仔の数は3年間で約45万匹。うち、生き残るのは僅か2匹といわれています。生存率0.000004%! 自然の摂理とはいえ、子ども達の幸運を祈らずにはいられません。


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海を目指す母ガニ。


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森へ帰る母ガニ。

太古の昔から、こうして彼らは海と森、生命のバトンを繋いできたのでしょう。その尊い姿に畏敬の念を抱かずにはいられません。都会の海の生命のドラマに、自然の素晴らしさと美しさ、そして儚さを教えられた夜でした。