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+Karrimor vol.16 インド/フォトジャーナリスト・NUMA

インド中部、「中央の州」を意味するマディヤ・プラデーシュ州に初めてやってきました。そこにはインドに7つある「聖なる川」のうちのひとつ、ナルマダ川が流れています。マヘーシュワルにある川沿いの沐浴所を見下ろす高台に、この地方を治めた王族であるホールカル家が18世紀に建設したという古城がありました。
ちなみに、今回の旅では〈airport 70〉に撮影機材や旅の荷物を詰め込んで携行。キャリーケースでありながらも背負うこともできる旅好きにオススメのアイテムです。

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この国ではすべての聖なる流れが物語を持っています。ナルマダ川は「シヴァ神とガンジス川の間にできた娘」とされ、生涯未婚を貫く「ヴァージン・リバー」という。毒気の抜けたサドゥーの笑顔が、この川の純粋さを物語っています。

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水流はどこまでも透き通っていて、川面を埋め尽くさんばかりの魚が群れていました。目に入るものすべてがキラキラと輝いて見え、「雑多で混沌としたインド」というステレオタイプなイメージが次々と剥がれ落ちてゆきます。

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川沿いのマヘーシュワルに滞在しました。川を見晴らすことのできる高台に、18世紀、インドール藩王国の女性当主、アヒリヤー・バーイー・ホールカルが築いた古城があります。ヒンドゥー教のパトロンであったアヒリヤーは川岸に寺院と沐浴場を開き、今日の巡礼地の礎を築きました。

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夕刻、そして早朝と、2度のボート・トリップに出ました。朝と夕では、川の表情も、それを取り巻く空気も全く違います。中州には古寺があり、9世紀もしくは10世紀に建立したと推測され、「地球の中心」と人々が信じてきた古刹。中央の州の中心を聖なる川が流れ、さらにその中央には、世界の中心が存在する。ヒンドゥー教徒が紡ぎ出すストーリーはとても緻密で、いつも刺激的です。

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ところで私はこの旅で、初めてポーチ〈urban duty EDC hipbag〉を持参しました。「水際で使い勝手が良いのでは?」と想像したからです。実際に、コンパクトながらも2つのデジタル一眼レフカメラを収納することができ、船体の急な揺れにも体のバランスを失うことがありませんでした。おかげで機材の取扱いに神経質になることなく、ゆったりと船上での時間を過ごすことができました。

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インドの巡礼地で迎える朝はいつもドラマチック。呻くような声で祈祷する人々の声、寺院から響く鐘の音、そして、徐々にヴェールを脱ぐように完璧に演出されたとしか思えない、川を覆い尽くす濃霧。深い群青色だった闇は、気がつくと次第にピンク色の空へと変化していました。

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インド亜大陸の内陸部を旅するにあたって、携行する衣類のチョイスにはずいぶんと悩まされました。昼は太陽が照りつける一方で、夜はぐっと冷え込む。雨のほとんど降らない乾季の12月。保温性があり、撥水性と速乾性の高い〈jouney parka〉を選びました。

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ちなみにマヘーシュワルは、数々のインド映画が撮影された風光明媚な土地。最近では安全で安価な生理用品の普及に奔走した男の実話を映画化した「パッドマン」の撮影が行われています(2018年12月に日本で公開)。インド国内有数の景勝地では、この日も伝統衣装サリーのカタログ撮影が行われていました。

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アヒリヤーが建設した古城は2000年、インドール藩王国最後のマハラジャ、プリンス・リチャードは大規模な補修を行うと同時にゲストハウス〈Ahilya Fort〉として客人を受け入れるようになりました。過去にミック・ジャガーやヒラリー・クリントンがはるばるマヘーシュワルへこのゲストハウスに滞在しにやってきたそうです。ゲストノートには彼女のメッセージとサインが残されていました。

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マヘーシュワルを離れ、マンドゥへ。そこは「中央インドで最も美しい村」と讃えられ、15世紀に栄えたマルワ王国の痕跡が点在していました。その中で最も壮大なのは「船の宮殿」と呼ばれる遺跡。目の前に貼る古代の貯水池にボートを出して遊ぶ地元の子どもたちとそれを見守る大人たちが絵画的な風景に華を添えます。

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シリアのダマスカスにある大モスクにインスパイヤされて建設されたジャミ・マスジット、タージ・マハルのモデルになったとされるホーシャン廟、王国を取り囲んだ12の門などを見て回り、中央インドで積み重ねられた知られざる歴史に触れることができました。

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ナルマダ川の中に浮かぶサイラーニ島のホテルに滞在。早朝、川を眺めようとテラスに行くと、若い女性がヨガをやっていました。柔らかな身体から繰り出される難解なポーズはどれも神々しく見え、「ヴァージン・リバー」の純粋性と重なり合って見えました。

またバルワハという小さな町では、動物愛護に一生を捧げるトニー・シャルマ氏と出会いました。幼少期にハト猟に熱中した後悔から動物保護活動に転じ20年、虎、孔雀、蛇、亀などあらゆる動物を救った。その献身ぶりを知る人々は、街に野生動物が出現しても、駆除する前に彼の元へ相談に来るようになったそうです。

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アグラやバラナシ、コルカタやゴアのように名の通った観光地は存在しません。けれども野生の虎が生息する野生保護区があり、10万年以上前に人類の祖先が生活していたと推測される岩陰遺跡があり、中世に栄華を極めた王国がいくつも存在し、現在もマハラジャとして君臨する王がいる。そうした自然文化を古代から育んできたのは、聖なる水流として崇められてきたナルマダ川。マディヤ・プラデーシュ州は、「インド亜大陸のゆりかご」と呼ぶに相応しい場所かもしれません。