ガイドという仕事柄、いろいろな地域の山へ行くので、足を踏み入れたことのない県は少なく、残すは福岡・佐賀・長崎・沖縄となりました。訪れたことのない岩場は魅力的で、ぜひ訪れてみたいクライミングエリアもありました。そんな中、以前アラスカへ遠征にいった先輩と12日間の九州へのクライミングの「旅」に行ってきましたのでご紹介します。

我々は福岡空港で集合し、最初の目的地である福岡の日向神(ひゅうがみ)峡へレンタカー(約1時間半)で向かいました。日向神峡は、湖の周囲に岩塔・奇岩がいくつもあり、迫力のある景観を作り出しています。岩質は安山岩で、それぞれの岩塔に名前があり、エリアも広範囲に広がっているので、季節や天候に合わせて楽しめるようです。


久しぶりのプライベートなツアーなので、特徴のある垂壁を中心としたスラブやポケットを使ったクライミングのルートを選んで、少しずつ体を慣らしていきました。天候は好天のサイクルに恵まれたのですが、寒気が入ってきていてとても寒かったので、ダウンジャケットは手放せません。その分、岩の状態は非常に乾燥していてフリクションは抜群でした。


クライミングエリアのある福岡県八女市といえば、ご存知の方も多いと思いますが、「八女茶」といわれる最高級のお茶の産地です。レスト日は、そんなお茶を堪能させてくれるお店で、至福の時間を過ごすことができました。私は今まで「お茶を楽しむ」という時間や機会をもったことがなかったので、改めて日本茶の美味しさや美しさを感じることができました。

今回の旅は、クライミングに時間を使いたかったので、キャンプ場でのテント泊を選びました。宿泊したキャンプエリアは、どこも設備が整っていて、週末の予約は一杯でとても賑わっていました。そんな時、パートナーの先輩が持参していた寝袋を見てびっくり!そう、カリマーです。今と違ってロゴが大文字です。海外遠征も数多くこなしている先輩から、「古くても上質の羽毛をつかっているので暖かい」というコメントを聞き、カリマーのものづくりの精神が非常に誇らしく感じました

5日間過ごした、思い出深い日向神を後にして、我々は次なる目的地である長崎県大村市の龍頭泉に向かいました。私にとっての長崎のキーワードは、「海」だったので、岩場に行く途中に見えた海とその向こうの里山、入り組んだ海岸線と静かな海に浮かぶ島々を見たときに、日本らしさというか、懐かしさを感じて、「ここまで来てよかった」という気持ちを噛み締めました。
長崎では、どんなクライミングができるのか。実はほとんど何も調べていなかったのですが、ひとつだけ記憶していることがありました。


それは「逆鱗」(五段+)という日本最難のボルダリング・ルートがあるということでした。日本を代表するクライマーの小山田大氏がこのルートを登っている時の目の輝きと表情をとらえた写真は、今でも私の心に焼き付いています。このルートは、我々には難しすぎるので、すぐ横にある地元の方々のご尽力のおかげでリボルト整備されたルートでクライミングを楽しませてもらいました。


普段、クライミングをした後は、翌日に備えてまずは地元の温泉へ向かいます。強張った筋肉をほぐしながら、地元の方々の話に耳をかたむけるのですが、理解するのがなかなか難しい。そんなことを話題にしながら地元の飲食店へ。海鮮丼に皿うどん!これぞ長崎ちゃんぽん(?)。しっかりと「食」も楽しませていただきました。

あっという間に旅も終盤です。最後は、気温も少し高く暖かそうな北九州市平尾台のエリアに行くことにしました。ここには、カルスト台地とよばれる石灰岩が創り出す独特な地形が広がっています。ハイキングルート・鍾乳洞・展望台・グランピング施設・キャンプ場などの施設も整っているので、観光目的でも楽しめそうです。

ここでは、石灰岩特有のオーバーハングでのクライミングが楽しめます。大きなケーブやコルネ、そしてポケットを使って、傾斜の強い壁を大胆なムーブで登っていきます。ホールドが磨かれていないので、フリクションもよく、成果もでて、気持ちよくツアーを終えることができました。


クライミング終了後に、国の天然記念物・千仏鍾乳洞の散策も体験してきました。鍾乳洞内の奥(900m地点)まで探検することができ、地球が創り出す神秘的なものに出合える場所。写真のように水が流れていますが、サンダルが無料で用意されていますので、ご安心ください。

福岡・中州の神秘的なネオンが印象的な一枚。楽しく充実した時間は、あっという間に過ぎてしまいました。クライミングの成果や内容もよかったのですが、今回は特に九州の人々のOMOTENASHIと出会いが、印象に残っています。
親切にしていただいた九州のみなさん、茶寮の美しいスタッフの方々、家族のみんな、そしてパートナーの熊谷さん、本当にありがとうございました。おかげで最高の旅でした。みなさんの次回の「旅」にも、クライミング・登山・ハイキングを組み入れてはいかがでしょうか。