残雪の北アルプス ~針ノ木雪渓~【アンバサダー 京屋仁】

下界では桜が散り始めて初夏のような暖かさですが、北アルプスにはまだたっぷり雪が残っています。この時期は雪も固くなりバックカントリーには最適です。今回は残雪の針ノ木雪渓に出かけてみました。

駐車場のある扇沢駅に着いたのは朝の5時半。こんな時間にもかかわらず沢山の車がすでに停まっていました。どうやら立山に行く人たちの車のようです。最近開通された「雪の大谷」という巨大な雪の壁を見に行くお客さんたちなのでしょう。針ノ木雪渓の登山口であるこの扇沢駅は、北アルプスを越えて富山県へと続く立山黒部アルペンルートの長野県側の出発点でもあるのです。

登山口の脇には長野県大町市出身の登山家、百瀬慎太郎さんの「山を想えば人恋し、人を想えば山恋し」という言葉が書かれた看板があります。いつもここを通るたびに共感してしまいます。そして無事に帰って来られるようお願いをしてから登り始めます。

歩き始めるとあちこちに雪解けでできた小川が流れています。山はようやく春に近づいてきましたね。そうは言ってもまだまだ朝晩は冷え込み、日中解けた雪は朝には凍りつき、登山道の途中に出てくるアスファルトの道はツルツルに固まっていました。滑らないように注意しながら歩きます。

ここからはスキーシールに変更です。スキーシールとはスキーの板の裏に貼る滑り止めシールの事です。スキーを履いたまま坂道を登ることができます。靴では沈んでしまう深い雪の上でもスキーシールを貼ればスケートで滑るように登っていけるのです。ちなみに今でこそたくさんの種類が出ているスキーシールですが、昔はアザラシの毛を使っていたそうです。

平坦なところは簡単に滑って歩けますが、急な登りはスキーシールでもとても大変。ですから急な斜面を直登するのではなく写真のようにジグザグに登っていきます。雪が多いと先頭でトレース作る人は大変です。この日も有難いことにすでに誰か上がっていました。

休憩時にふと後を振り返ると、美しい北アルプスを望む事ができました。中央に見えるのは北アルプスの爺ヶ岳という山です。この山も先週は雪が解けて黒々した土が見えていましたが、一昨日に降雪があり真っ白な雪山に逆戻りしてしまいました。稜線には雪煙が上がっていて非常に風が強そうです。

登っていると途中で雪崩の跡「デブリ」がありました。比較的新しいもので、恐らく昨日か今日落ちたものでしょう。降雪の次の日気温が上がると雪崩のリスクは高まります。

このようなロールケーキの様な雪が上からコロコロ落ちてきたときは要注意です。この時期、雪解けで地面と雪の層の間に隙間ができる事で、雪の層がすべて滑り落ちる全層雪崩が頻発します。全層雪崩は威力も凄まじく、小屋などを簡単に壊してしまいます。

12時を過ぎると雪崩のリスクが非常に高まるので少しペースを上げます。久しぶりの山登りで息がすぐに上がり、一歩一歩の足取りが重くなってきました。ましてや気温の上昇により水分を多く含んだ雪はとても重く、スキーの上に乗ると足を上げるのすら大変になります。

針ノ木雪渓の最上部。今日の核心です。雪質が変わり今度はとてもさらさらした柔らかい雪。これはこれでシールが滑ってしまいなかなか進めません。思ったより苦戦して時間を取られましたが無事針ノ木峠に到着です。

針ノ木峠の稜線に出るとやはり強風が吹いていました。低姿勢にならないと飛ばされてしまいます。なんとか風をしのげる所を見つけて休憩を取ります。登りで思ったより時間がかかってしまったため、このまま針ノ木岳に行けば12時に戻ることは困難と考えここで下る事にしました。

下りの事も考えるともう少し早めに出るべきでしたね。そしてしばらく山に行けてなかったこともあって体力がなくなり、登りでロスをしてしまいました。そんな事を考えて針ノ木岳を羨ましく眺めながらスキーで降りる準備をします。

滑りだしは順調。雪も味方してくれてとても快適に滑る事ができました。北アルプスを眺めながらのスキーは最高ですね。最後は多少ストップ雪となっていましたが許せる範囲です。登りに3時間近くかかったのに帰りは30分。楽しみはあっという間に終わってしまいます。

春山シーズンはこれからです。スキーをしまって、雪山ブーツとピッケル、アイゼンを持って残雪の北アルプスに登りたいと思います。

京屋 仁

京屋 仁(きょうや・じん)クライマー。長野を中心に活動。フリー、アルパイン、バックカントリー、トレイルランニングとオールラウンドに精通。 主な成果は小川山NINJA5.14a第11登、北岳バットレスDガリー奥壁オンサイトフリーソロ、八ヶ岳大同心大滝オンサイトフリーソロ。

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