東京から車を走らせること約9時間。今季は岐阜県側の林道災害により、富山県側から有峰湖へアプローチとなります。長距離移動はさすがに疲れましたが、前日入りするだけ価値のある風景が出迎えてくれました。

青く静かな有峰湖の畔に辿りついた瞬間、今日の疲れがリセットされました。

刻々と変化する薬師岳の夕景は、とにかく美しかったです。明日は、あの上からどんな色が見られるでしょうか。

翌朝、満点の星空から薄ら明るくなっていく空の下、折立を出発。熊の目撃情報に内心ビクビクしつつ、沢沿いや木立の間から時々吹く風に癒されながら、ゆっくり登って行くこと1時間半。太郎坂の急登が緩やかな斜面に変わるころ、加賀の白山、剱岳や弥陀ヶ原、眼下には有峰湖や富山平野などなど徐々に視界も開け、見渡す限りの絶景に包まれました。

蒸し暑かった樹林帯の後は、期待以上の晴天。汗で流れ落ちてしまった日焼け止めを塗り直し、秋の澄んだ空気と強烈な日差しの中を登ります。

歩きやすく整備された山道。こうやって整備してくださる姿には頭が下がります。翌日は、霧雨の中でも作業されていました。

登山開始から5時間弱、大休憩ポイントの太郎平に到着。目の前に北アルプス深層部の名峰が現れ、これまでの疲れが一気に吹き飛びました。冷たい牛乳で喉を潤した後は、ここからさらに絶景を求めて、山頂直下の薬師岳山荘へ向かいます。

のどかな木道、涼しい沢沿いや涸れ沢の岩場、穏やかな草原から望む大パノラマなど、薬師岳までは、絵に書いたような雄大な景色と共に登っていきます。

憧れの槍ケ岳や水晶岳、秘境・雲ノ平、振り返れば黒部五郎岳など、以前登った山やこれから登りたい山が次々と姿を現す度に、メンバー同士の会話も弾みます。暑さが辛いけれど、薬師岳山荘までは、もうひと頑張り。

山荘は居心地が良くて、根が生えそうでした。しかし、明日の台風の影響が迫って来る前の貴重な青空。様々な誘惑に耐え、山頂へ向かわなくてはなりません。

あと10分早ければ…と後悔するほど、東の空から雲が湧きはじめ、槍の穂先が見え隠れしていましたが、大きく横たわる赤牛岳や黒い水晶岳、特別天然記念物のカール(圏谷群)の眺めは圧巻でした。

台風の影響を大きく受けている東側の山脈に対して、穏やかな富山湾の雲海。夕暮れ時は、怪しさと美しさが混在する貴重な空から目が離せませんでした。

雨音で起こされた翌朝は、レインウエアを着用して下山開始。視界はゼロでも、用心していた程の風雨にはならず一安心。山麓に下るころには日差しと蒸し暑さで、いつもの半袖スタイル。出発の前日まで迷いに迷った天候でしたが、結果、素晴らしい山行となりました。