ultimate project

アルパインクライマー 成田賢二

テクニカルなシーンでのフィールドテストが求められた〈ultimate project〉。白羽の矢が立ったのは、アルパインクライマー・成田賢二。成田は、2017年には谷川岳幕岩のCフェースに冬期にのみ出現する氷柱「シーラカンス」の完登(第2登)など、登攀技術はもちろんのこと、豊富な経験を持つ。企画段階から携わる成田に2度にわたるヨーロッパアルプスへの遠征、製品づくりに込めた思いを聞きました。

成田賢二

1982年生。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドII、(株)MountainWorks所属。山梨県北杜市在住。山岳救助や遭難捜索にも携わる。山岳での特殊作業、高所作業、映像製作、登山道整備などを専業としている。

プロジェクトに
込めた熱意

「初めてお話をいただいたとき、率直に言うととても困難な課題だと思いました。少し考えさせてください、と。厳冬期という過酷な環境に対応できる道具をつくることは容易なことではなく、途方もない試行錯誤とテストが必要です。それでも何度かプロジェクトについて話を伺っていると熱意に圧倒されて、ぜひやってみたい、関わってみたいと思うようになりました」。

厳冬冬期のアルパインクライミングという、過酷さも難易度も高いシーンに対応できるこれまでにない製品をつくるためには、トップクラスのクライマーの声が必要でした。

「企画段階では、対象となるフィールドについて意見を交換しました。製品としてユーザーに届けるということを考えると、様々なコンディション、シチュエーションに対応できる汎用性も不可欠です。クライミングだけでなく、アプローチや野営といったシーンを想定して、そのためにはどのような製品が必要なのかという、根本的なところから意見を交わしました」。

すでにアルパインクライミング向けの製品は存在します。しかしながらその多くはグローバル規格のもののため日本人体型に合わないという問題もありました。

「日本のアルパンクライミングというのは、ヨーロッパや北米とは違って冬期でも湿度が高いという特徴があります。そういった環境のギャップがあるのに海外メーカーの製品をそのまま使えるかといえば、当然厳しいシーンもあります。日本の環境に適した、日本的なプロダクトこそ、今求められているのではないのか、と」。

カリマーと
クライマーが
掲げた目標

アイスクライミングを頂点に、冬期のアルパインクライミングシーンに対応できるプロダクトとは何か。開発に際し、テストは国内のフィールドで随時行い、さらに2回の遠征を組み込みました。氷河があり、バリエーション豊かなロケーションが集まるヨーロッパアルプスが、メインとなる遠征テスト地の候補に残りました。

「ひとまず、素材や機能を見極めてサンプルをつくってもらいました。現物を着用してみないと、生地の厚みやジッパーの長さ、裾の長さ、腰回りのフィット感など、設計上ではどうしても見えてこない部分があります」。

サンプルを実際にフィールドで使用し、機能や性能を確かめる。クライマーにとっての現場はやはりフィールドです。リアルな使用感をふたたび製品に落とし込み、仕上げていく。

「インサレーションジャケットひとつとっても、中綿のボリュームを決めるのはかなりシビアになりました。行動時に暑すぎるのは使いにくいですし、薄すぎても使いにくい。どういったシーンにターゲットを絞るのかを考え、変わりつづけるアルパインクライミングのトレンドを意識しつつ、本質を常に念頭に置いてアドバイスさせていただきました」。

クライマーのための
ウェアづくり

「ウェアの場合、クライマーが求めるのはムーブ(手足の動き)がしやすいということ。バイルを高く上げたときに袖が下がってこないよう、長さや袖口の機能を検証しました。サンプルを何度もつくってもらい、既存の製品にはない、より先鋭的で、難しい登りに対応できるようになったという印象です」。

さらに、成田がこだわったポイントのひとつがシェイプ。ハードシェルジャケットはもちろん、パンツやインサレーション、フリースなど、すべてのシェイプをブラッシュアップしました。生地の形状だけでなく、素材の配置、立体裁断を取り入れるなど、体の動きに追従できるようなアイデアをふんだんに盛り込んだのです。

「とくにアルパインクライミングの場合、ちょっとしたストレスが命に関わることも少なくありません。些細なことがクリアになることで、よりクライミングに集中できる、洗練させてくれるんです。自分の動きにフィットしてくれるということが、最終的には結果にも繋がりますし、自分の命を守ってくれます」。

フィールドテストと
プロダクトの完成

フィールドテストはシャモニー周辺の山域、アイガーやメンヒといった山々を中心に敢行。氷河でのアイスクライミングや雪山でのアルパインクライミング、ロッククライミング、長距離のアプローチといった、想定される様々なシーンで感触を確かめました。

「〈ultimate project〉の製品は、冬期のアルパインクライミングというかなり絞られた分野を最大のターゲットとして開発された製品であり、今までのカリマーになかったラインであることは間違いありません。一方で、冬山登山をはじめようという人たちにも過不足なく使っていただける製品になっている自負もあります。

たとえば、北八ヶ岳で雪山ハイクをはじめた人たちが今度は赤岳に行ってみよう、より上を目指して冬の剱岳に登ってみようというステップアップにも最適ではないでしょうか。〈ultimate project〉では、クライマーとメーカーが一緒になり、可能な限り完璧に近い製品を目指しました。もちろん完全に完璧なものなどはありませんが、いちクライマーとして製品化の最後の瞬間までベストを尽くせたと思います」。

アルパインクライミングの場合、
些細なストレスを最小限まで削ることが、
最終的に結果にも繋がるし、
自分の命を守ることになる。

成田賢二

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