はじまりの山

5年ぶりくらいにリュックを新調した。40ℓでも、フロントのポケットが大きく、これならテント泊でもいけると即決した。試しに、家で荷物を入れて背負ってみたら、背中にフィットして重さを感じない。「やっぱりこれだ」という誇らしい気持ちとともに、懐かしい記憶が蘇ってきた。

12年前、初めて北アルプスに登った。同行者は自分と同じく登山を始めてまだ日の浅い初心者。憧れの穂高で初心者でも登りやすいということで、行き先は涸沢に決めた。さらに初テント泊山行だからと、大きなリュックを買うことにした。当時はまだ山ガールなどいなかったから、リュックに女性専用モデルなんて皆無で、身長の低い自分にはどれも背面が合わない。そんななかで唯一女性モデルがあったのが、今回新調したのと同じモデルだった。

ピカピカのテントとシュラフ、食事には凍らせた豚肉やら生野菜やらを張りきって詰め込んだ。40ℓのリュックはパンパンで、朝、背負ってみたらひっくり返りそうになった。思えばこのとき、もう少し自分の体力について謙虚に考えるべきだった。

無根拠な自信に満ちあふれていた私たちは、夜行バスはしんどいという理由から始発で東京を出発、昼すぎに上高地に着いた。山の時間感覚ではありえないスタート時間だが、私たちは無知すぎた。東京の夏は5時すぎでも明るい。そんな感覚で、夕方に涸沢に着けばぜんぜん余裕でしょくらいに考えていた。しかも背中にはこれまでの人生で背負ったことのない重量の荷物。徳沢まで歩いたところで完全に膝が死に、歩けなくなってしまった。

どうしよう…。友人の顔が曇る。どんな無知なふたりでも、このまま無事に涸沢に着けないことはわかる。渋々、徳澤園のテント場で一夜を明かすことにした。情けなさと恥ずかしさのなか、無言でキムチ鍋を作る。暗くて寒い山の夜。ヘッデンを頭に着けて鍋をすする私を見て、友は「工事現場の人みたい」と笑った。「女を捨てて山に来てるからね」。そう言うと、腹の底から笑いがこみ上げてきた。
「おいしい…」。友が絞り出すように言う。なんてことのないキムチ鍋がとんでもなくおいしく思えたのは、やっと緊張が解けたからだろう。目的地には着けなかったけれど、山の中でテントを立て、自炊していることの誇らしさと喜びが、このときようやく実感できたのだと思う。翌朝、今度こそ早起きして涸沢まで登った。素晴らしい景色に胸が躍ったけれど、不思議なことに今でも思い出すのは、徳沢で食べたキムチ鍋の味だったりする。

12年ぶりに、あのときと同じモデルのリュックを背負って上高地に立った。テントもシュラフも変わらないのに、足取りはずっと軽い。もちろんリュックの性能も進化しているだろうけれど、たぶんそれだけじゃない。何度も間違え、失敗し、情けない涙を流して登ってきた山々。その時間がなければ、こうして山を楽しいと思える日はこなかったと思う。リュックに満載してきた肉と野菜で作ったキムチ鍋は、12年越しにようやく穂高の山々を見上げたのだった。

Karrimor × ワンダーフォーゲル

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