Karrimor × Coyote

意外性の美学

最近、クライミングジムで新しい友人ができた。
すでに10年ほど、やったり休んだりを繰り返しながら続けているジム通いだが、
同世代の彼と出会ってからは、前よりも頻繁に通うようになった。

彼は、いつもプレスの効いたブランドもののスーツでビシッと決めていて、ジムに着くと、愛用のバックパックから着替えとクライミングシューズを取り出す。バックパックとは言っても、ともすればビジネスバッグに見えるような、シックなブラック。

ある時、その理由を訊ねたことがある。

会社帰りにクライミングジムに寄るんなら、別にバッグを用意するとか、もっと便利な方法はいろいろとあるだろうに、と。

「うちの会社、固いんですよ」というのが彼の答えだった。

「余暇というものを理解する人が少なくて。仕事帰りにクライミングしてるってバレたら、仕事よりも遊びを優先してると思われ兼ねない雰囲気があるんです。でも、そういう人に限って、呑むくらいしか趣味がない」。ヤレヤレという顔をして言う。

「一時は、コインロッカーに預けたりもしてたんですけど、それもやっぱり面倒で。ジムの人は預かってくれるって言うんですが、僕、軽く潔癖症なんでこまめに道具はメンテナンスしたいから、手元に置いておきたいんですよね」

愛用のバッグは、仕事の書類やノートPCなどを入れた上で、クライミングシューズも収まる。出先でクライアントに会う時にも、これだったら違和感がないと、彼は言う。

「まさか、この中に履きこんだクライミングシューズが入ってるなんて、誰も思わないですよね。そういうところも気に入ってるんですよ」

そんな彼は、5.10b(4〜5級)付近でウロウロしている僕と違って、ぐんぐん強くなっている。いまでは、5.12a(1級)をラクに登る。始めたころはいろいろとアドバイスもしていたのだけど、本当にあっと言う間に追い抜かれた。

いまだって、難しいムーブをまたひとつ決めた。

1時間ほどみっちり登ったあと、じゃあまた、と言ってスーツに着替えた彼は颯爽とジムを後にする。肩にはスーツに良く似合うブラックのバックパック。その姿だけみれば、誰もこんなに登れるヤツだとは思わないだろう。

羊の皮を被った狼、とは彼のことだ。

アフターワークの頼もしい相棒

tribute 20

¥14,580 (税込)

13インチまでのノートPCを収納できるパット入りスリーブや、細かいガジェットを小分けできるポケットなど、タウンユースで役立つ機能が満載。背面システムの作りやタフさは、アウトドアで培ってきたノウハウを注入。

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