同じザックの人

7月の涸沢。手早くテントを撤収し、小屋の脇道を登る。普段なら3時間ほどで山頂に着くけれど、今日はそうはいかない。案の定、すぐにS美が「足が痛い」と言いだす。だから嫌だと言ったんだ。

私たちは大学の登山サークルに所属していて、S美は一学年下の2年。私とK太が北穂高岳に行くと聞き、同行を志願してきた。「岩稜の山、初めてでしょ。デビューしようよ」とK太は快諾したが、私は反対した。これは私とK太が毎年楽しみにしている二人きりの山行だった。部内では秘密にしているが、私たちは1年のころから付き合っているのだ。
山頂が近づくとS美の足取りは怪しくなった。つまずいたり、岩にリュックを引っかけたりして、そのたびに甘ったるい悲鳴を上げる。適当にパッキングしたであろうリュックは不格好に膨らみ、左右に揺れては岩に当たる。K太は甲斐甲斐しく手を貸してやる。
岩山ではリュックはすっきりしたものがいい。そう教えてくれたのはK太だ。私のは小ぶりで、岩に引っかからないよう底面は鋭角。さらに雨蓋部分に高さがなく、空を見上げても雨蓋が頭に当たらない構造のものを選んだ。
黙々と先頭を歩く私の背中にS美が叫ぶ。「先輩、強すぎー。自立した山女って感じ!」「コイツは鉄の女だから絶対真似しちゃダメ。S美ちゃん、荷物、ちょっと持ってやるよ」
世話を焼くK太にイラつき、どんどん歩く。こんな女にだけはなりたくないと思いながら。K太とS美が付き合っているという噂が立ったのは秋の初めだった。K太とは変わらず過ごしていたので気にもとめていなかったが、ある晩、K太が突然家に来て床に頭をつけた。「傷つけると思って言いだせなかった」と。
私は努めて冷静に振る舞った。そうでないと涙が出そうだった。彼の私物を詰めて渡す。
「お前ってすごいな…。ずっと言わなかったけど、そういうとこがなんかさ、息詰まる」

それが最後だった。池袋の居酒屋でK太と再会したのは就職して3年目の春だった。飲料メーカーに就職したK太はその後すぐS美と結婚し、来月娘が生まれるのだという。
なんかさー、あいつって昔からだらしなかったじゃん。家の中なんて常にカオスだから」
ほろ酔いのK太が愚痴り始める。
「子ども生まれたら逃げられないし、マジで憂鬱。お前は相変わらずピシッとしてんなあ」
相槌を打ちつつ、怒りと悲しみが混じったようなものが腹の底から湧き出すのを感じる。
「あのころさ、お前は山でも学校でもいっつもちゃんとしてたじゃん。俺、地味に焦ってたんだよね、置いていかれるんじゃないかって。ダサいよなあ、それがお前のいいとこなのに」
もしあのとき、私が不格好なリュックを背負っていたらどうなっていただろう。一瞬、大きな腹をさするS美の姿が自分に重なった。でもやっぱり私は、山で大げさな悲鳴を上げるような女性じゃなくてよかったと思う。
あのリュックは現役で、私は今年も岩の山へ向かう。誰の手も借りず自分の足で、めざすべき場所へ向かって一歩ずつ、登っていく。

Karrimor × ワンダーフォーゲル

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