ひとりの山

八ヶ岳。赤岳の頂上に向かう尾根の途中に、しゃがみ込んでいる人がいた。朝は晴れ渡っていた空は昼すぎから雲行きが怪しくなり、小雨も降り始めている。
「大丈夫ですか?」
「ええ、はい、あのう、カッパが見つからなくて。いちばん底に入れちゃったのかなあ…」
20代らしき男性。単独のテント泊だろうか、大きなリュックをひっくり返している。
「これ、着て!」反射的にリュックの雨蓋からレインジャケットを取り出し、渡す。
「いや、あなたが濡れてしまいますから」
「僕は傘もあるから大丈夫」
なかば無理やりジャケットを着せて、一緒に頂上まで登った。小屋に着いたとき、濡れたTシャツを着た彼の体は冷えきっていた。
「助かりました。単独行は初めてなもので」
聞くと、一年ほど前から仲間と山を始めたそうだが、周囲がソロ山行に熱を上げ始め、自分も真似て、初の単独行に挑戦したのだという。
初めてひとりで山に登ったのは、彼と同じ20代の中ごろだった。慣れてくると男同士つるんで山に登るのが急激にダサく思えてきて、ある夏、ひとりで白馬岳に登ってみた。大雪渓を過ぎ、岩場が連続する尾根に差しかかったとき、史上最重量のリュックに押しつぶされるようにして頭から豪快に転んだ。
「大丈夫か!?」という誰かの声で気がついた。足も腕も動くし、大丈夫だ。そう思って頭を上げようとしたら、体を強く押された。
「動いたらダメだ。頭、パックリいってる」
額を触った手にはべっとり血が付いていた。
助けてくれたのは年上の女性と、父親くらいの歳の男性だった。ふたりとも単独行で、女性はガーゼと手ぬぐいで応急処置をしてくれ、男性は自分の荷物と僕のリュックをカラビナで連結させて、小屋まで背負ってくれた。あまりの手際のよさに、僕は終始ぽかんとしていた。
「ひとりの山ってのは、いいよな。でも自分のケツを自分で拭けるようになってからだ」
山小屋で落ち着いた後、男性に礼を伝えに行くと、そう、静かにたしなめられた。
「でもまあ、命があってよかったよ」
そのときになって初めて、今日自分が死んでいたかもしれないと気づいた。脚が震えた。
「カッパ、ありがとうございました」
山小屋で、男性が雨具を返しにきた。
「雨具はすぐ出せるところに入れないとダメっすね。俺のはやたらぶ厚いから雨蓋とかに入らないし。お兄さんのコレ、超薄いし小さく収納できるし、帰ったら速攻で買います!」
おどけるような口調とは裏腹に、テーブルに置かれた雨具は几帳面にたたんであった。
雨風は強さを増し、テントの客らが避難してきた。今日はみんな小屋泊まりだろう。ストーブを点け、湯を沸かす。額の傷や体のあちこちに残る失敗の痕について考えてみる。
「ある日突然、ひとりで完璧に山に登れる奴なんていないよ。誰だって、みんなそうだろ」
2人分のコーヒーを淹れながら僕は、ひとりで歩いてきた山のこと、長い長いその話を、ひとつずつ彼に話してみたいと思っていた。

Karrimor × ワンダーフォーゲル

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