山とからだ vol.2

今日、様々な山行スタイルが確立し、あらゆるギアが開発されています。カリマーは製品をつうじて、登山時の疲労や負担ををいかに軽減できるかを軸に日々研究、商品開発を行っています。

『karrimor WANDER LABO:山とからだ』では、本来、体とはどのように動く仕組みなのか、どのように動かせば効率的なのかといった、人体の観点から登山時の疲労軽減に役立つスキルを紹介して行く企画です。第2回のテーマは「骨盤」です。

では、その骨盤とはどのようなものなのでしょうか。 骨盤とは俗に言う腰骨と違うの? 骨盤と腰との境目はどこから? などイマイチ場所が特定しづらい部分かもしれません。また男性と女性とではその構造に違いがあります。

男性の骨盤は小さくしっかりしています。それに対し女性の骨盤は妊娠出産ができるような構造になっており、大きく緩みやすいです。女性は妊娠すると骨盤が開きます。骨盤が開くというのは骨盤内の関節が緩み、出産の準備体勢に入るということ。これは女性特有な事であり、男性の骨盤は女性の骨盤より小さく、締まっており、靭帯がしっかりしてます。そのため女性の骨盤は男性より緩く歪みやすいです。妊娠してなくてもこの緩みは起こりえるので、骨盤を起点とした体の歪みや不調は女性に多く見受けられます。最近では「骨盤矯正」や「骨盤の歪み」などよく耳にします。では骨盤はどのように歪んだり、歪むと不具合が生じるのでしょうか? 体の中心に位置する骨盤を今回もフランクリンメソッド・エジュケーターの吉倉あいさんと紹介していきます。

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骨盤とは?

骨盤とは一つの骨ではなくいくつかの骨が集まってできたものです。寛骨、仙骨、尾骨で構成されており、寛骨は腸骨、恥骨、坐骨から成り立っています。

次に骨盤の場所を確認しましょう。前段でお話しした通り骨盤は腰骨(ひときわ尖った骨)と混同しがち。一般的にいう腰骨とは実は骨盤の一部で、正確に言うと腸骨の先端部分(上前腸骨棘=ASIS)を指します。では骨盤と腰の境目はどこでしょうか? ウエスト(くびれ)を両手で包みそのまま手を下におろすとウエストの下の側面で硬い骨に行き当たります。この骨が腸骨の上部(腸骨稜)で、ここを基準にして上側が腰、下側が骨盤です。骨盤の位置はなかなか説明しづらいのですが、ズボンを履いた時に全て収まるのが骨盤、腰はおへその真裏と思ってもらうとイメージしやすいかもしれません。

仙骨は体の中心

近年のリュックを背負う際、ヒップベルトを腰骨(上前腸骨棘=ASIS)を目安にして載せるように装着します。これは重い荷物を担ぎ山を登る際、最も重要なことで、正しくヒップベルトを装着する事が効果的な疲労軽減に繋がるとカリマーは考えています。

骨盤の中で最も重要な部分は仙骨。骨盤の中心に位置する仙骨に体の重心があり、仙骨はある程度の荷重を支えることができます。仙骨と腸骨の間に仙腸関節という関節があり、微細な動きがあります。体の重心があり、この微細な動きが力を吸収するので仙骨は荷重に耐えらるのです。「荷重を骨で支える」というカリマーの哲学もここから生まれています。しかしながら悪い姿勢、つまり荷重がしっかり仙骨にかからないと、負担が腰などに集中し、腰痛やヘルニアの原因になりやすいです。良い姿勢とは荷重が仙骨にしっかりかかること。正しい位置で荷重を仙骨で支えれば、腰に負担がかからず登山時の疲労軽減に繋がります。

一見楽に見える片足に体重を乗せ壁などに寄りかかったり、足を組んだりする姿勢は実は良くありません。これは骨盤が歪みやすいです。一般的に「骨盤が歪む」というのは仙腸関節がズレている状態を指します。当然関節なので歪むとズレます。あまり知られていないのですが、これはとても重要なことです。詳しくは後篇でお話したいと思います。

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骨盤の役割

また骨盤は力を伝達する役割があります。いわゆる中継地点なようなもので、脚が動けば骨盤が動き力をあらゆる箇所に伝えています。背骨が動けば、力は骨盤を通り脚に伝わります。頭が動いても背骨を通り、骨盤に伝わります。骨盤を中継しエネルギー交換が行われているのです。

体の一部のバランスが崩れると体は他の場所で悪いバランスを補おうとします。エネルギーの流れと同様に全ての動きは繋がっており、体の中心である骨盤が正しい位置にないと他の部分にも影響してしまいます。例えば骨盤が後ろに傾き気味に座ると腰の骨全体が後ろに丸くなります。そうすると腰の骨は後ろに押され、腰痛やヘルニアの原因になります。この姿勢は男性によく見られ、登山時の姿勢、デスクワーク時の姿勢にも多く見受けられます。

少し大げさですが、荷物を背負う時は図のように腰から曲げるのではなく、股関節から脚を曲げて重さが仙骨に伝わるようにします。山で見かけるほとんどの人は股関節ではなく腰から曲げています。この姿勢は呼吸が浅くなり、次第に辛くなり疲労が溜まりやすくなります。また腰にも大きな負担がかかります。

試しに悪い姿勢(後傾時)と良い姿勢(ニュートラル時)で重い荷物を背負い比較してみてください、大きな違いに気づくと思います。ウェイトリフトの選手を例にあげると分かりやすいかもしれません。骨盤から体がまっすぐで、股関節を深く曲げています。持ち上げるとき、仙骨は前に傾き無理なく力を伝達しています。

大切なのは重心が仙骨にあることです。仙骨は微妙に前に傾いているのですが、この形がとても重要。この形状が腰の骨にS字をつくり力の吸収を行なうのですが、重心を仙骨で上手く感じる事はなかなかできません。目安になるのが、椅子に座わった時に坐骨に均等に体重が乗っていること。重心が仙骨にあり、どこにも負担がかかっていない、つまりどこにも力が入っていない状態が理想です。ここぞと言う時や、踏ん張る時、よくお尻の穴を絞めるように力を入れますが、これは間違いです。お尻の穴が締まるような力が入っていると骨盤は後傾気味の悪い姿勢になってしまいます。足裏、お腹、全てにバランスよく力が入ることが大切です。


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普段のトレーニング

まずは仙骨の場所と良い状態を把握しましょう。仙骨の探し方ですが、最初に骨盤の後ろに手を当てます。中指がお尻の割れ目に来るようにします。同時に手首を腰の位置に合わせます。そうするとちょうど手の平に仙骨が包まれます。

仙骨の場所が分かったら、イメージしつつ小さい動きから始めて動かしましょう。椅子に座り骨盤を立てます。そうすると椅子とお尻の間に坐骨を感じます。これがいわゆるニュートラル状態です。悪い姿勢(骨盤が後傾)だと坐骨を感じることはできません。動きは簡単で、ニュートラル姿勢から骨盤を前傾、後傾を交互に行い、仙骨をよく動かします。力でなく、痛みや違和感を感じない程度に気持ちよく動かしましょう。

20〜30回を1セットとし、1日2セットほど行えばOK。第一回目でお話しした呼吸と同じように通勤時の電車やデスクワーク時にもできますので、ぜひ日常に取り入れてみてください。


骨盤は良い姿勢の起点になります。骨盤が正しい位置にあること、重心が仙骨にあること、これが良い姿勢を作り出します。良い姿勢であれば呼吸も自ずと深くなり、登山時の疲労軽減に役立ちます。

歩く時に骨盤は必ず動きます。負担なく、スムーズに歩いたり、山を登ったりするには呼吸時の横隔膜と同じように日々動かすことが大切。よく動かすことで力の吸収と伝達が効率的に行え、高いパフォーマンスを発揮できます。

また骨盤は足と繋がっているので、骨盤と足を繋ぐ股関節は非常に密接な関係にあります。股関節は骨盤が良い位置にあるとよく動き、効率的に脚を動かすことができます。骨盤を正しい位置で維持できれば自ずと姿勢は良くなります。次回は「骨盤 後篇」。股関節を中心とした動きの中での骨盤にフォーカスしていきます。お楽しみに!

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吉倉あい(よしくら・あい)

ピラティスインストラクター、フランクリンメソッドエジュケーター。
1979年生まれ、北海道出身。年齢、性別、運動レベルにとらわれず幅広く指導。人間本来の機能的な身体、機能的な動きに着目し日々探求している。

karrimor WONDER LABO

カリマーのプロダクトのどれもが、明確な用途や目的を持って作られています。ブランド名の語源「carry more=もっと運べる」は、未知の領域だった山へと踏み入っていくために必要な荷物を過不足なく運ぶことが、いかに重要な要素だったかを物語っています。ここでは、プロダクトひとつひとつをじっくり余すことなく「解剖」し、「検証」していきます。

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