Japanese Winter Climbing in 錫杖岳【アンバサダー 稲田千秋】

地球温暖化による気候変動が世界各地で報じられていますが、日本の冬も10年前と比べ明らかに変わってきました。スキーやアイスクライミングなど、毎年当たり前だったことが、10年後にはもう出来なくなるのかも知れません。フィールドアクティビティを愛する人たちは、年々強くなるそんな危機感を胸に、かけがえのない遊び場へと今日も出かけていくのです。

雪不足が嘆かれていた1月の後半、友人とともに錫杖岳に行きました。

錫杖岳は北アルプス槍穂高連峰の南西にあります。一般登山道はないですが、多くのロッククライミングルートを有する人気の岩山です。そして冬には、滝や岩から染み出した水分が凍って、岩と雪と氷のミックスクライミングを楽しむことができます。

今回は、氷が主体となる前衛壁1ルンゼというルートを登りました。写真は前衛壁の全景です。ひときわ目を引く白い筋状になっているのが1ルンゼルートです。

ルートの取り付きを目指して前衛壁へとアプローチします。前日に積もったと思われる深く締まりのない新雪に、ときには胸までもぐりながら、ラッセルして進みます。

1ルンゼルートの1ピッチ目は私のリードからスタートしました。この日は通常より氷が少なく、安全確保のためのプロテクションをセットできる岩の割れ目もほとんどないので、出だしからかなり厳しいクライミングとなりました。

難しいポイントは「うーっ!」と唸りながら、2時間もかけてやっとのことで1ピッチ目を登り切りました。達成感と安堵感で思わず笑みがこぼれますが、時間がかかり過ぎたことには反省。今日は目的地までたどり着けないかも知れませんね…。

パートナーがフォローで登ってくるのを迎えます。リードの荷をなるべく軽くするため、大抵はフォローが2人分の水食料などを背負います。

2ピッチ目はパートナーがリードし、V字になった岩溝の基部まできました。ここから左の氷壁を目指します。

3ピッチ目は途中までを私がリード。やはり氷は薄く、氷にねじ込んで使うアイススクリューはほとんど機能しませんでした。なんとか岩の割れ目を探して、カムと呼ばれるクライミングデバイスをセットして登ります。

3ピッチ目の途中でリードを交代し、パートナーが硬く垂直な氷瀑を登りはじめました。氷が岩から浮いているところでは、アックスを打ち込む音がその空洞に低く響きわたり、登る人の恐怖をあおります。パートナーは慎重にリードして突破。私がフォローで登るころには、あたりはもう暗くなっていました。

ヘッドライトをつけて登ります。こういうのを山屋さんたちは“残業”と呼びます。そしてなぜか山屋さんたちの世界では、「残業して充実した」とか、ポジティブな行為として評価される傾向にあります。面白いですね。

目的の地点までは到達出来ませんでしたが、“残業”して充実の1日でした。アルパインクライミングはとてもやりがいがあって楽しいです。こんな楽しいクライミングを、いつか世界の巨大な山でやるのが私の夢です。

その夢が叶う日まで、世界の自然環境が大きく変わったりしないで欲しいと願います。そしていつまでも多くの人たちがフィールドアクティビティを楽しめるよう、私にも出来る何かを日々考えながら過ごしていきたいと思っています。

稲田 千秋

稲田 千秋(いなだ・ちあき)形成外科医、クライマー。学生時代から登山、クライミングに熱中し、季節やジャンルを問わず様々なスタイルでフィールドアクティビティに興じる。現在はフリーランスで世界中を旅しながらクライミングを楽しむ傍ら、国際認定山岳医として、日本の山岳医療発展のため活動する。2016年 Yosemite国立公園 El Capitan "The Nose"完登。2019年 ペルーアンデス Alpamayo "French Direct"登攀など。

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