8月の鳥海山【アンバサダー髙橋 大輔】

秋田県と山形県にまたがる鳥海山は出羽富士とも呼ばれる。標高2,236mの山頂を目指し、秋田県側の矢島口ルートから登った。涼を求め真夏の霊峰へ

鳥海山は古来、山岳信仰の対象として崇拝されてきた。登山口の祓川から約1時間で御田(おだ)に到着する。山伏はこの水溜まりを天空の田んぼに見立ててそう呼んだ。鳥海山は農業神事の場でもあった。

舎利(しゃり)坂はかつて鳥海山の最高点だった七高山山頂(標高2229m)の手前にある難所。岩屑まじりの小石が斜面を覆い、歩きにくい。舎利とは仏の遺骨を意味する言葉で、ここにも山伏たちの活動の痕跡が見られる。

鳥海山の山頂が近くなった。カルデラ内に山小屋が!

鳥海山の山頂は1801年の噴火で形成された溶岩ドーム(新山)の頂上に位置する。その異様な姿が登山者の前に立ちはだかる。

この日はチョウカイフスマに出会えたから、それだけで幸運を掴んだような気分。鳥海山を代表する高山植物で、山頂部の岩の割れ目にひっそりと咲いていた。

新山へと向かう登攀道は巨石の迷路の中を進む。岩穴には山伏が建てた祠が祀られていた。

ついに新山山頂へ。溶岩ドームの山頂からカルデラの外輪山を望む。異次元の世界に来たかのようなインパクトがある。

鳥海山の山頂に到着。達成感とともに真夏の暑さを忘れる清涼感に満たされる。

髙橋 大輔

1966年秋田市生まれ。「物語を旅する」をテーマに世界各地に伝わる神話、伝説などの背景を探る。2005年ナショナル ジオグラフィック協会(米国)の探検隊を率い、実在したロビンソン・クルーソーの住居跡を発見。2022年、王立地理学協会(英国)より勅許地理学者(CGeog)の称号を授与される。現在、秋田県の山奥に墜落したB29の探索や甲斐駒ヶ岳山頂に土器を残した縄文人のミステリーを追いかけている。

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